素浪人の生存報告

　朝ご飯を買うのに垂水市街を徒歩で右往左往していたら、40分くらい経った。おかげで血流が良くなったのか、朝の脚のだるさが消えた。自転車漕ぐ前に、準備運動として散歩を取り入れようかな。

　ライダーハウスでだらだらしていたら出発が12時過ぎた。「急いで九州回らなきゃ！」と、ついこの間まで焦ってたのに、結局一日たりとも急いで移動した日はない。うーむ。流石だ。まあ、どうやら飛行機には間に合いそうだし、いいのだ。

　鹿児島県は田舎の道も歩道(自転車通行可)が充実していて助かる。歩道充実日本一。歩道は車道を走るのと比べて時速が5kmくらい落ちるが、後ろから来る車に気を払わなくて済むので精神的に楽だ。
　ついでに、今日は日曜日だからクソバカトラックもおらんでのんびり。平和だ。

　旅人達がよく行くらしい、本土最南端の佐多岬を無視し、大隅半島・シラス台地を横断。最南端とか、最北端とか、最長とか、最軽量とか、水切り以外のギネス記録とかにはまるっきり興味なし。

　今日はテントで寝て宿泊費を浮かそうと思っていたが、夕方になって急に冷えてきたので、弱気になり民宿へ。また風邪ひいたら困るもんね！というのが言い訳。もうテント泊は無理だね。南九州でも最低気温は一桁だもん。
　どっかでバイトしないと、埼玉まで辿り着けないなあ。それに、冬と杉花粉を凌がないといけない。沖縄か雪山。

昨日の夜は、鹿児島黒豚を出すトンカツ店で、けちって黒豚じゃないロースを食べて胃が焼けた(ロースの油が駄目…)ので、今日は昼に再訪し、お得なランチで黒豚ヒレを。たまには食事で贅沢せな。
確かに旨かった！昨日の肉とは全然違うわい。各県で一つは旨いもん食べたいからな、鹿児島はこれでＯＫ。


桜島の灰に体がアレルギー反応を起こしたらしく、目がかゆい。昨日からかゆかったんだよなぁ。まいったね。自転車の装備は汚れるし。

今日はライダーハウスに泊まり、オーナーの旅論や東西比較文化論を聞いて勉強になった。

　知覧の特攻平和会館へ。ここには絶対に行かねばならなかった。何故ならば、人に強く薦められたから。
　中に入って打ちひしがれた。特攻隊の方々一人一人の写真・遺書・家族に充てた手紙を見ると涙が出てくる。

遺書
父上様、母上様、永い間待ちに待った日が愈々参りました。
◯◯は此度皇国の為立派に死ぬ機会を得ました。敵米英を撃滅し、皇国も安泰を護る為に◯◯は喜んで死んで行きます。
皆様は◯◯が死んでも決して泣かないと思います。それよりもニュースに出る敵空母轟沈を聞いて◯◯が体当たりしたものと思って喜んで下さい。
生れて二十年御両親様の慈愛深き御養育を受け、何の御恩返しも出来ず、親不孝をお詫び致します。然し皇国の為、立派に死ぬ事こそ軍人の本分です。兄上の事ももうあきらめて下さい。
御老齢なる父母様に何時迄も苦労させる事を済まなく思って居ります。
では末永く幸福に御暮らし下さい。
敵空母を只今より叩きつぶして参ります。
もう内地では桜も咲いて居る事と思います。
桜の様に潔く散ります。
　第日本帝国万歳

　御両親様
　　　　　陸軍軍曹 ◯◯
君の為吾れは征くなり南の海に
　　敵撃滅の火と燃えて

　何故こんなに若い人達(一番若い方は17歳)が死ななければならなかったのか、わからない。これだけの愛国心と精神力と高潔さのある方々なのだから、生きていらっしゃれば別の形で立派に日本国に貢献されただろうに…

　特攻に失敗した方々は無念だったろうなあ…。
　平和会館内に、訪問者の感想をまとめた書類があり、その中に元軍人の方の感想が載っていた。「当時の私達は、両親のいるこの国の空を、米英に侵されてなるものかという気持ちでした。本当に、皆がそうだった筈です」と、うろ覚えだがこんな内容だった。
　国にだまされていたとか、当時の報道が嘘っぱちだらけだったとか、そういうことではなく、この元軍人の方の感想は真実だと思う。自分を育ててくれた両親がいる、自分が生まれ育った国を護りたいというのは、至極自然な感情だ。それを否定するのは間違っている。

　誇り高き日本人の生きた証に触れることが出来た。日本の礎となった方達を忘れてはならない。特攻平和会館に来られて本当に良かった。

　今日は9時ちょい過ぎに出発。早い！(私にしては)
　国道3号はお約束通り、狭くて交通量が多い。前方からトラックが来て、後方からもトラックの音が聞こえる時が最悪。私が邪魔で、後方のトラックは前方のトラックが通り過ぎるまでブレーキを踏むことになる。私はこういうのが嫌で嫌で嫌で嫌で仕方ない。半年自転車を漕いでも慣れん。自転車を漕ぐと、肉体よりも遥かに精神が疲労する。

　そんな塩梅で、今日も不愉快なサイクリングをし、12時に川内(せんだい)という所についた時点の走行距離が35km。既に脚が疲れている。何かおかしい。何でこんなに体まで疲れやすくなってるんだ？栄養が足りてないのだろうか。弱気になりながら、先へ進んだ。

　結局なんだかんだで100km弱漕いだ。特に体は問題なかったのかな…。あまりにも気が進まな過ぎて、精神の疲労が肉体に移ったのかも。病は気からってやつだ。
　私は道楽のつもりでこの旅に出たが、他のチャリダーの中には、自己鍛練とか自分探しとやらを目的としている人達が結構いる様だ。私はここに来て、彼等が正しいことを悟った。長い自転車旅は、道楽にはならん…。鍛練モードに切り替えよう。この道は名遊撃手へ続いていると思うことにして乗り越える。


　鹿児島は一年中温かい所だと思っていたら、明日の最高気温は13度、明後日向かう方向の最低気温が2度…。寒い。寒いと弱気になる。
　九州は山口から引き続き、景色も恐ろしくつまらないし平らな道もないし、雪が降る前にさっさと終わらせたい(と言っても、景色も良くて道も割と平らだったのは、山形と青森と滋賀くらいだったが)。